こどもの心のコラム

「こどもの心の発達外来」担当医師によるコラム。お子さまの状態を理解する為の情報を掲載しています。

自閉症スペクトラム障害(ASD)

自閉スペクトラム症(ASD) とはどんな病気でしょう

ADHDと同じようにASDも生まれつきの脳機能の障害から生じる発達障害の代表的な疾患です。発達障害は遺伝子が関与する遺伝的原因と、胎生期(受精後8週までの胎芽期とそこから出生までの胎児期)の間に脳へ影響を及ぼした環境的原因との相互作用の結果生じると現在のところ考えられています。出生後の環境要因、例えば乳児への養育者の働きかけが極端に乏しい場合などにASDに似た状態が愛着障害の症状として見いだされることがありますが、それは発達障害としてのASDではなく、アタッチメント(愛着)の障害と考えるべきでしょう。
ASDという言葉は比較的新しいものですが、今から75年ほど前にカナー(米国最初の児童精神科医)が「早期幼児自閉症」と呼んだケース報告から歴史はスタートします。ASDという疾患は、これまでもあった自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群などの関連疾患を一つにまとめ、自閉症の特徴が重度から中等度(このあたりが自閉症)、そして軽症(アスペルガー症候群が中心)までのケースを含んだ連続体(スペクトラム)として考えられているのです。
それでは子どものASDの特徴的な症状はなんでしょう。ASDの症状でまず思い浮かぶのは「空気が読めない」「人の気持ちがわからない」「マイペース」といった社会性をめぐる問題です。こうした特性のためにASDの子どもはわがままで、自分勝手な困った子どもと誤解されることがあります。でもそれは、ASDの子どもが「他の人の心は自分とは違うふうに感じ、違うことを考え、それぞれの動機にしたがって行動する」という現実を直感的にとらえる脳の機能がゆっくりとしか発達しないことに原因があり、けっして「わがまま」「躾られていない」「自己チュー」ということではありません。
コミュニケーションの問題も社会性の問題と影響しあう重要な症状です。重症や中等症のASDの子どもは始語の遅れに始まる言語発達の遅れが見られ、言葉が出てきても反響言語(エコラリア)と呼ばれる話しかけられた言葉をそのまま繰り返す発語や、甲高い発声、しり上がりの特有なイントネーションといった明らかな問題点を伴っています。一方、軽症のASD(アスペルガー症候群)では始語は遅れず言葉は増えてくるのに、コミュニケーションスキルとしての言語使用には独特な問題を伴うのが特徴です。その一つが言葉を字義通りに理解してしまうことで、例えば「お風呂のお湯を見て」という母親の言葉には「お湯が一杯になっていたら止めてね」という依頼の意味が含まれていることを理解できず、字義通り風呂を見るだけで終わってしまうということがASDの子どもではよく起こります。相手の言葉の中の喩えやほのめかしといった遠回しで曖昧な表現の真意を理解できず、言葉の表面的な意味だけをとらえてしまうからです。
ASDにはもう一つ重要な症状があります。それは興味が狭い範囲に集中しやすく、柔軟に周囲に関心を払うということが非常に難しいということです。例えば、幼児期から昆虫に非常に関心を持ち、図鑑を手放さなかった子どもが、小学生になり昆虫では非常に物知りになったものの、学業には関心を持たず、授業中でも図鑑を手放さないことで先生を困らせるということがあります。大人からすれば、昆虫に向けている探究心の一部を例えば算数や社会に向ければよいのにと思うのですが、かたくなに昆虫にこだわり、その関心は応用がききません。この強いこだわりはASDの代表的な特徴の一つです。
さらに、感覚過敏もASDの子どもの特徴的な症状とされています。例えば触覚過敏がある子どもではシャツの襟の感覚を嫌がり、襟のある服はすべて襟を切り取らないと着ないとか、下着のタグを取り去らないと着ないということが起きてきます。同じように聴覚過敏があると例えば音楽の授業のピアノの音を嫌って音楽に出席しないということが生じてきます。
もしお子さまがここで挙げたような問題のために学校生活や家庭生活をうまく送れていないとしたら、ASDの傾向の有無について専門家に相談してみることをお勧めします。

著者プロフィール

齊藤 万比古(さいとう かずひこ)

医学博士 サイコセラピー学会理事長 日本AD/HD学会理事長 前日本児童青年精神医学会理事長。
千葉大学医学部卒業。国立精神・神経センター精神保健研究所児童思春期精神保健部長、精神科部門診療部長、恩賜財団母子愛育会 総合母子保健センター愛育病院小児精神保健科部長を経て愛育研究所児童福祉・精神保健研究部部長、愛育相談所所長。数多くの臨床例に基づき発達障害と不登校について研究を重ねる。
平成30年4月より千葉県松戸市の医療法人社団翠松会松戸東口たけだメンタルクリニックにおいて発達障害・不登校の専門外来「こどもの心の発達外来」を担当。

著書

「知ってほしい 乳幼児から大人までのADHD・ASD・LDライフサイクルに沿った 発達障害支援ガイドブック」「発達障害が引き起こす不登校へのケアとサポート」「ひきこもり・不登校から抜け出す」「注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン第4版」など多数。

「こどもの心の発達外来」のご案内

医療法人翠松会では、松戸東口たけだメンタルクリニックにおいて「こどもの心の発達外来」を開設しています。
「こどもの心の発達外来」は齊藤万比古医師による注意欠如多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害(ASD)などの発達障害、不登校・ひきこもり、愛着の障害等でお困りの幼少期から児童期、思春期(3歳から17歳)までのお子さまを対象にした専門外来です。
齋藤医師の児童精神科医として長年の臨床経験と研究実績を活かし発達障害、不登校・ひきこもり、愛着の障害などお子さまのお困りの状態を総合的に理解しお子さま自身への診療と我が子の悩みや問題にかかわり続ける親御さんの心の成長をサポートしてまいります。
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